トリックマイスター・ファンから翻訳家になった男

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ヒゲ
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本記事はアドベントカレンダーへの参加記事です。
ただのフリーゼファンの男が公式日本語版に携わった話。
それではどうぞ。

全国504万人のフリーゼファンの皆様、フリーゼを讃えよ。
どうも、緑の狂信者・ヒゲボドです。
僭越ながら、私はサニーバードから出版されました『トリックマイスター』の翻訳/ルール構成を担当させていただきました。皆様、お楽しみいただいているでしょうか。

このたとえ話が正しいのかは分かりませんが、好きなプロレスラーを応援していたらセコンドに抜擢されたような大変光栄な出来事でした。
改めて、このようなチャンスをくれたサニーバード様には大変感謝しております。

本記事では最初にトリックマイスター日本語版と初版との違いについてまとめます。トリックマイスター初版のレビューは別でしておりますので、そちらをご覧ください。
その後に私がいかにしてフリーゼのファンになって、そして日本語版に携わることになったのかを話していこうと思います。

トリックマイスター日本語版と初版の違い

①パッケージが緑になった。

まずはこれですね。
初版はAMIGO社から出版されましたが、その際に黄色メインのパッケージでした。
私がゴリ押したわけではなく「まぁとりあえず緑にはしましょう」となりました。

AMIGO版。本記事内では以下初版と表記。

そして別府さいさんによる加筆により、インパクトと躍動感のあるパッケージになりました!
パッケージも初版よりも大きいものになりました。

躍動感!

②コンポーネントが増えた。

今回の出版は日本語版のみになる(アートワークを変更した韓国語版は出るそうな)ということで、初版をそのまま出すのではなくプレイしやすいようにしていこうとなりました。この辺から2-F Spielの編集担当ヘニング氏とのやりとりも出てきました。
個人的にはこのような経験が初めてでしたが、とてもフレキシブルでゲームに対して真摯な姿勢のパブリッシャーだと感じました。
増えたのは主に4つ、切り札表示カードと手番順カード、得点計算表とチュートリアルシートです。
最初の2つは私が初版をプレイしていてあるといいなと思っていたもので追加していただきました。マイナス点になることもあるので、得点計算表はあってもいいよねという感じで導入していただきました。チュートリアルシートについては後述します。サニーバードの平さんの手柄です。やっぱりすごいよ、平さん。

③ルールカードの取り扱いが変わった。

今回の出版にあたって、初版の際にはAMIGO社の編集のプロセスの中でデザイナー・フリーゼのルールから変わった点があることが分かりました。一番大きい部分がルールカードの取り扱いです。

初版:ルールカード3枚の中からラウンドの最初に1枚出す→次のラウンドの前に1枚補充する。

日本語版:ラウンド数の枚数のルールカードを配る→補充はありません。つまり、使い切る。

元々のデザイン上の意図としては、ぶっ飛んだルールカードも出さなければならずこのゲーム特有のカオスなルールが生成されることを狙っていたようです。一方で初版のルールはプレイヤーに選択肢を与えることで無難なルールにもできるという点があります。遊びやすいのは後者かもしれませんね。
…とはいえ、トリックマイスターを好んでやるトリックテイキング好きは初版ルールでもカオスなルールを求めてルールカード放り込む気がしますね。
制作チームで相談して、フリーゼが本当に作りたかったものにしようということで現状のルールになっています。
しかし、初版から遊ばれていた方の慣れ親しんだルールをカットするのも忍びないということでヴァリアントルール:クラシックスタイルとして残しました。

ヴァリアントルールといえば、イージースタイルも導入しました。
数字切り札と切り札スートという考え方が、他のトリックテイキングゲームではあまり導入されていない(もちろんなくはないのですが数は少ない)ためプレイミスが起きやすい/そもそもルールを間違えて認識していることがありました。
このヴァリアントルール導入が私の作業の中では一番難航しました。
何度も編集のヘニング氏とやりとりを重ねました。
こちらの意図を伝えつつ、ゲームとして破綻のないようなルールにするためにはどうするかという議論…本当に真摯に受け答えしてくれたヘニング氏には感謝しています。
そして、色々な指摘をしてくれた後に「君たちが思うベストな日本語版にしてくれればそれでいい。」と添えられていました。この信頼にはなんとしても応えねば、そんな背筋の伸びる言葉でした。
最終的に、ヘニング氏の提案とこちらの提案の折衷案である「切り札ルールカードの数字指定のものを抜く」に落ち着きました。切り札スートが複数あることによる戦略性は残しつつ、数字切り札によるリヴォークを防げる形になっていると思います。

⑤トリックテイキング用語集/チュートリアルがついた

トリックマイスター出版に当たって私が一番不安だったのは…正直トリックマイスターは誰が手に取っても簡単に遊べるゲームではないということです。
パブリッシャーとしてのサニーバードのファンの方が手に取った時、もしその人がトリックテイキングを初めて遊ぶのだとしたら、このゲームは向いていないという事実。そしてプレイできないのではないかという不安…名作小箱シリーズ第1作にするということもあり、失敗したくないという気持ちがありました。
そのハードルを越えやすくするために、別府さんにトリックテイキング用語の説明の項、平さんはチュートリアルシートを作ってくれました。
トリックテイキングゲームの編集の経験豊富な別府さんと、ボードゲームカフェ経営の経験からみんなに楽しんでもらうノウハウを知っている平さん。どちらも私一人では、できなかったことです。

とにかくいろんなことを考えて、トリックマイスター日本語版をいいものにしようと頑張りました。
ここまで頑張れたのは、そもそも私がフリーゼ作品が好きだからでしょう。
ではなぜ私はフリーゼのことを好きになったのか、それを書いていきます。

私が「緑の狂信者」になった訳

記録をさかのぼってみると、私がボードゲームを初めてプレイしたのは2014年。
きっかけは、当時よく見ていたニコニコ動画でゲーム実況者たちが集まって『ワンナイト人狼』をプレイしているのを観て、面白そうだから買ってみようと思ったことでした。
パッケージにある「たった3人から遊べる」の“たった3人”が集まらなかったのを覚えています。

それほどボードゲームに興味がない家族と一緒にやった。

それからしばらくしてボードゲームカフェに通うようになり、ワンナイト人狼以外にもボードゲームを購入するようになりました。結構なペースでゲームをプレイしていたと思います。
時は流れ2019年頃。ちょっとボードゲームを通して嫌な経験をしたことをきっかけにして、私は急激にボードゲームに飽きていました。
「またこういう感じのワーカープレイスメントね…」というように同じようなシステムの焼き回しに急激に飽きていました。なんなら、もうこの辺で辞めにしようかとも思っていました。

ただ、どうせ辞めるなら今まで避けていたものをやってみてからにしようと思ったのです。
その時まで避けていたもの…それはフリードマン・フリーゼトリックテイキングゲームでした。

ボードゲームを始めた頃に仲良くなった先輩ボードゲーマーに「フリーゼは無茶苦茶なゲームを作るからやらない方がいいよ」と言われていました。
言い方こそ悪いですが、確かに初心者に対していきなりフリーゼ作品を出すのはリスキーです。

トリックテイキングゲームは、なんとなく「カウンティング」というのが敷居が高く感じており、プレイできていませんでした。今でもカウンティングはさほど得意ではありません。

初めて遊んだフリーゼ作品は『フルーツジュース』でした。
自分がワーカープレイスメントに対して不満に思ってたことが解決されていて、「もしかしたら、このフリードマン・フリーゼっていう人は面白いゲームを作る人なのかもしれない」と思い始めて、こちらのゲームをプレイします。

そう、『電力会社』です。
初めてプレイした時、「世の中にはこんなに面白いゲームがあったのか」と刺激的で楽しかったのを覚えています。

それからフリードマン・フリーゼの作品を片っ端から遊びました。
するとどうでしょう。箱を開けるたびに、毎回初めて体験するような刺激的なルールのボードゲームの数々。システムのマンネリを感じていた私にはこれほどいい薬はありませんでした。
初めてフリーゼをプレイした4カ月後には、フリーゼのゲーム以外プレイ禁止の『みどりの会』を自分で主催するに至ります。フリーゼを讃えよ。

ボードゲーム翻訳者ヒゲボドの誕生

2019年、中部の誇る老舗ボードゲーム専門店「ゲームストアバネスト」が20周年を迎えられました。
大規模な記念イベントも開催され、私も髪の毛を緑色にして参加させていただきました。
その折に、初めて中野さんとお話をする機会がありました。ボードゲームに対しての向き合い方が大変勉強になりました。

ほどなくして、バネストが翻訳の要員を募集する旨の告知がありました。
実は中学校の頃の夢は「翻訳家」になることだった私
翻訳の経験はないものの英語には一定の自信があったので立候補させていただき、以降80点以上の翻訳を担当させていただきました。(2022年12月執筆段階)

何本か翻訳をご依頼いただいた後、フリードマン・フリーゼの当時の新作「ファストスロース」が日本では流通していない状態でした。そこで、中野さんに「私が訳すので、入荷してもらえませんか」とお願いしました。「フリーゼは現代のゲームデザイナーの中で最も信頼できるうちの1人だから、是非入れましょう」と快く受け入れてくれたことを今でも覚えています。
(その中でいくつかのミスをしてしまったのは今でも悔やんでいます)

サニーバードとの出会い

ボードゲーム初心者の頃から、ボードゲーム系Podcast『おしゃべりサニバ』は毎週聴いていました。はじめて聞いたのは第6回『サイズ大鎌戦役と優しさ』の回。
聴いていく中でお便りを書いたり、第137回「日本語化、修羅道」では私の日本語化のやり方をご紹介いただいたりもしました。

時は流れ、2020年初頭から流行の兆しを見せていた新型コロナウイルス。
私の好きなおしゃサニもコロナ禍のあおりをうけ、オンライン収録になり苦戦している様子でした。
今にして思えば、出しゃばったことをしたなと思うのですが、そんなおしゃサニを救いたいと思い、オンラインでフリーゼの話をさせてもらえませんかと申し出ました。
そんな無理やり出演したのが第209回「ゲームデザイナー回フリードマン・フリーゼ」。

改めて聴き返すと、この回がこれ以降に起こる色んな出来事のきっかけになっている気がします。
これ以降にサニーバードから出されるフリーゼのゲームについての話がバンバン出てきていますから。ちなみに収録当時には、私も平さんもこんなことになるとは思ってもいませんでした…よね?

その後、ファストスロースの日本語版の出版が決まり、この時は「校正/用語チェック」という立場で関わらせていただきました。別府さいさん書きおこしのプリント駒も相まって、たくさんの方にプレイしていただきました。

プレイのしやすさを向上させるプリンティング駒。

トリックマイスター日本語版

ファストスロースのご縁から、平さんと別府さんと度々オンラインでお話をする中で、「トリックマイスター日本語版どこからから出ないかな」となり、行動力抜群の平さんが出版の話をつけてきてくれました。
始めは、ファストスロースの時と同様にまた校正をお願いすると思いますと言われていました。
ただ、サニーバードから出版されるゲームが増え、やはり翻訳からお願いしますと正式にご依頼いただきました。

色んな出会いとチャンスに恵まれました。
こうして、私は大ファンであるフリードマン・フリーゼの作品に、子どもの頃の夢だった翻訳家という立場で関わることができました。

ボードゲーム翻訳の世界へのきっかけをくれたゲームストアバネスト中野さんフリーゼ作品に関わるきっかけをくれたサニーバード平さん、そしてなによりボードゲームから離れつつあった私をもう一度引き戻してくれた、私のボードゲームヒーロー フリードマン・フリーゼ氏にとても感謝しています。

そして、全国504万人…とはいかずとも、トリックマイスター日本語版を手に取っていただいた方々、本当にありがとうございました。
それは、ファンから狂信者になった、そして子どもの頃の夢を叶えたとある男の宝物です。

それでは、皆さま。これからもよきボードゲームライフを…

フリーゼを讃えよ

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